プロローグ

2001年4月、私は父の青いフォルクスワーゲンで上京した。
青く晴れた空の下、中央道をひた走り、着いたのは橋本のぼろアパート。
大学のアパート紹介コーナーにあったその部屋を、父は私の意見など無視して半ば独断で決めた。私は全然乗り気ではなかったのに、一人暮らしにはこんなもんでいいのだ、十分十分、立派立派、などと宣い、入学手続きのために日帰りで行ったその日のうちに契約してしまった。私は親にお金を出してもらう身分であることと、なにより東京は初めてなもので、東京で10数年暮らしたことのある父の言い分に反抗したくともしきれず、大変不本意な気持ちムンムンのままその部屋へ住むことになってしまった。6畳の畳の部屋と、小さなユニットバスとキッチンがついたその部屋は、正直全然住みたいとは思えないような部屋だったが、唯一の救いは窓の外には畑が広がっていて向こうの家との間にたっぷりとした空間があり、その景色はここはほんとに東京かね?と思うようなのどかさが感じられる、ということだった。
上京してなんと17年が経つ。東京での一人暮らしが家族と過ごした長野での時間を越える日は近い。17年の一人暮らしは、私の人格の半分を、いや、きっと8割くらい形作っているんじゃないかと思う。ひとりでの暮らしは、きっとおかしなルールだらけで、この先もしも誰かと暮らすことになった時、私はそのおかしなルールを止めることができないんじゃないかと思う。だってそれは、もうそれが「私」なのだから。
ここでは、東京でひとり暮らしている中で感じたこと、東京でひとりで暮らしたからこそ感じること、などを書いていきたいと思う。17年目を迎えたこの4月、だいぶいびつな東京独居生活を記していくことで、私はもっと晴れやかに、この暮らしを楽しめるようになりたい、と思う。